知的障害による障害年金と就労の関係〜判決からみる障害認定基準

社会保険労務士で産業カウンセラーの加賀佳子(@kako_sr)です。障害年金についての生きた情報をブログでお伝えしています。

こちらは主に知的障害のある方の支援者、社会保険労務士の方向けの記事です。

就労を理由に障害基礎年金が不支給とされ、二審の再審査請求まで代理したものの覆らず、弁護士につないで行政訴訟をしていた2件の事案で、2018年3月と12月に勝訴判決が出ましたので、ポイント部分を紹介します。

訴訟までの経緯

2011年9月より、精神に関する障害認定基準のうち、知的障害・発達障害に関する部分が改正され、診断書様式が改定されました。その後、2016年に等級判定ガイドラインが運用開始されるまでの間に、就労を理由とした不支給や支給停止が相次いだ時期があります。

私も多くの知的障害・発達障害に関する不服申立てを並行して代理し、ほとんどがなんらかのかたちで認定(または支給再開)されていますが、2名の方だけ再審査請求でも棄却され、残された手段は訴訟だけという状況になってしまいました(当時はまだ等級判定ガイドラインの話は出ていませんでしたので、それによる救済も考えられませんでした)。

いずれも2級が想定される方で、診断書の内容は2級相当(うち1人の方は、現行の「等級の目安」にあてはめると「1級又は2級」)、特例子会社で障害者雇用での勤務をしているということだけを理由に不支給。審査請求、再審査請求ともに棄却ありきの内容でした。

なぜこの2名の方だけ認められなかったのかは、今でもわかりません。

長い期間がかかってしまいましたが、2018年3月14日に1名の方の勝訴判決が、12月14日にもう1名の方の勝訴判決が出て、国の控訴もなく判決が確定しました。

ご家族にとっては負担が大きかったと思いますが、ようやくまっとうな結果を得ることができたと思っています。

障害認定基準の「基本的事項」

ご承知のとおり、障害認定基準には「障害認定に当たっての基本的事項」として、共通する障害の程度が定められています。2級の内容は次のとおりです。

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。この日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを 必要とする程度とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のものである。
例えば、家庭内の極めて温和な活動(軽食作り、下着程度の洗濯等)はできるが、それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの、すなわち、病院内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね病棟内に限られるものであり、家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものである。

この基本的事項を言葉どおりに読むと、障害の種類によっては全く当てはまらないということになりますし、さらに、知的障害を取り巻く社会的な状況は大きく変わっています。

それでも、周囲の援助を受けながら一定の時間をかけて通勤し勤務していることに対し、2級不該当の理由として国が必ず持ち出してくるのが、この部分です。

判決からみる「基本的事項」の解釈

この「基本的事項」に関して、今回のふたつの判決では、次のような解釈がされています。重要な部分を一部引用します。

被告は、障害認定基準が、障害等級2級の障害の程度につき、「家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものである。」とするところ、原告の活動範囲は、家庭内にとどまるものではないことは明らかで、原告は障害等級2級に該当しない旨を主張するが、そもそも障害認定基準は、前記1のとおり、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認した上で日常生活能力を判断すべきとしており、親族や職場の関係者等の支援を受けた結果、対象者の活動の範囲が家庭内にとどまらない場合に直ちに2級に該当しないとするものではないというべきであって、上記主張は採用することができない。(平成27年(行ウ)第534号)


被告は、障害認定基準によれば、障害等級の2級の例示が「家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの」とされていることを踏まえると、原告に係る通勤状況及び稼働状況に加えて、原告が休日に自宅以外に場所に出かけることもあったことなどからすれば、原告の障害の程度は、障害等級2級の例示に該当しないとも主張するが、前記(3)のとおり、原告は、本件会社の社員や原告母らの手厚い援助や配慮の下で通勤及び就労をし、前記2(3)オのとおり、休日も主に自宅内で過ごしているほか、障害者の友人と外出するほかは、決まったスーパーや自宅付近に行っているにすぎないから、「活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの」と評価でき、上記例示において活動の範囲が「おおむね」家屋内に限られると記載されていることも踏まえると、親族及び職場の関係者等の支援を受けた結果として活動の範囲が必ずしも家屋内に限られない程度となったとしても、それをもって直ちに障害等級2級に該当しないと評価することは相当ではない。(平成27年(行ウ)第194号)

原告の弁護団は、「活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの」のうち、「活動の範囲」は、反復練習、助言及び指導なくして自発的に活動ができる範囲と限定的に解釈すべきであるか、当該要件は精神疾患の場合には妥当しないと考えるべきであると主張しています。

判決は、このうち前者とほぼ同様の解釈をしているものと考えられます。

まとめ

この判決による解釈は、知的障害はもちろん、他の障害についても応用できるのではないかと考えています。そのため、多くの支援者や社会保険労務士の方などに知っていただきたいと考え、書きました。

訴訟で認められたことは大きな救いですが、本来、ここまでやらなければ認められないこと自体がおかしい事案でした。

知的障害がある方の就労は、多くの場合、職場内外の様々な支援や工夫、そしてなにより本人やご家族の少なくない努力により成り立っているのが現状です。

公平で丁寧な審査がされることを願っています。

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