社会保険労務士で産業カウンセラーの加賀佳子(@kako_sr)です。障害年金についての生きた情報をブログでお伝えしています。
前回は、精神障害全般に共通する「等級判定ガイドライン」について書きました。

このうち、うつ病や躁うつ病などの気分障害、統合失調症などで障害年金を請求するとき知っておきたい認定の基準や絶対に外せないポイント、請求の手順などを、何回かにわけて書いていきます。
少し長くなりますが、ご自身やご家族などで障害年金を請求しようと考えられている方には特に、ぜひ読んでいただければと思います。
Contents
障害認定基準の例示
障害認定基準では、各等級に該当する状態が、次のとおり例示されています。
統合失調症
- 1級・・・高度の残遺状態又は高度の病状があるため高度の人格変化、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験が著明なため、常時の援助が必要なもの
- 2級・・・残遺状態又は病状があるため人格変化、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験があるため、 日常生活が著しい制限を受けるもの
- 3級・・・残遺状態又は病状があり、人格変化の程度は著しくないが、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験があり、労働が制限を受けるもの
気分(感情)障害
- 1級・・・高度の気分、意欲・行動の障害及び高度の思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり、ひんぱんに繰り返したりするため、常時の援助が必要なもの
- 2級・・・気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり又はひんぱんに繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受けるもの
- 3級・・・残遺状態又は病状があり、人格変化の程度は著しくないが、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験があり、労働が制限を受けるもの
ざっくりいうと、病状により「常時の援助が必要な状態」が1級、「日常生活に著しい制限を受ける状態」が2級、「労働が制限を受ける状態」が3級ということになります。
ところで、この「日常生活への制限」とか「労働への制限」というのは、どのように判断されるのでしょうか。
「労働への制限」の考え方
等級判定ガイドラインの「総合評価の際に考慮すべき要素の例」では、精神障害と就労との関係について、次のように例示されています。
- 安定した就労ができているか考慮する。1年を超えて就労を継続できていたとしても、その間における就労の頻度や就労を継続するために受けている援助や配慮の状況も踏まえ、就労の実態が不安定な場合は、それを考慮する。
- 発病後も継続雇用されている場合は、従前の就労状況を参照しつつ、現在の仕事の内容や仕事場での援助の有無などの状況を考慮する。
- 精神障害による出勤状況への影響(頻回の欠勤・早退・遅刻など)を考慮する。
- 仕事場での臨機応変な対応や意思疎通に困難が見られる場合は、それを考慮する。
ほか、前回「共通事項」として書いた部分ですが、精神障害では特に、次の項目が重要になると思います。
就労の影響により、就労以外の場面での日常生活能力が著しく低下していることが客観的に確認できる場合は、就労の場面と、就労以外の場面の両方の状況を考慮する。
たとえば、「どうにか仕事には行くものの、ぐったりと疲れてしまい、帰宅後はほとんど寝たきりで、身のまわりのこともできない」といった場合、そういった状況が客観的に確認できれば、その状況も考慮されるということです。
この「客観的に確認する」方法は示されていませんが、やはり診断書の「日常生活能力の判定と評価」や、その他の記載事項が、なにより重要と考えられます。
就労の状況や労働能力について、診断書には次のような記載欄があります。
就労していると障害年金は受給できないという誤解もありますが、そのようなことはありません。とはいえ、就労の状況が、審査に大きく影響するのは事実です。
1日に何時間、週に何日、どのような仕事を、どのような配慮や援助を受けて行っているのか、仕事場ではどのような状況なのか、欠勤や遅刻などの勤怠状況はどうか、どのように通勤しているかなど、全て審査の対象となりますが、その状況が書面に示されていなければ、審査する側には伝わりません。診断書や病歴・就労状況等申立書でしっかり示すようにすることが重要です。


「日常生活能力」の考え方
「日常生活への制限」については、主に、診断書の「日常生活能力の判定と評価」で審査されます。
この「日常生活能力の判定」は、「単身生活で可能かどうか」で評価されることになっています。したがって、評価の観点としては、計画性などを含めた幅広いものになります。
たとえば「適切な食事」では、「配膳などの準備も含めて適当量をバランスよく摂ることがほぼできる」という状態で、はじめて「できる」という評価になります。仮に、「家族が用意してくれた食事を、声をかけられながらどうにか摂る」という状態や、「買いだめしてあるカップ麺を食べるのがやっと」という状態だとすれば、「できる」ということにはなりません。
それぞれの項目について、次のような観点から考えてみていただけると、日常生活にどのような制限があり、どのような援助を必要としているのか、見えてくると思います。
社労士 かこ
1.適切な食事
(配膳などの準備を含めて適当量をバランス良く摂ることができるか)
- 自分で献立を立てたり、調理や後片付けができますか?
- 時間や食事量、栄養バランスなどを考えて食事できますか?
- 極端な偏食や食欲不振、過食などはありますか?
- 食事を摂るために周囲の声かけなどが必要ですか?
2.身辺の清潔保持
(洗面、洗髪、入浴等の身体の衛生保持や着替え等ができるか。また、自室の清掃や片付けができるかなど)
- 家族などに声をかけられなくても入浴できていますか?
- 着替え、洗面、髭剃り、歯磨きなどはできていますか?
- 寒暖やTPOに応じた衣服選びや身だしなみができますか?
- 自室の掃除や洗濯、ゴミ出しなどはできますか?
3.金銭管理と買い物
(金銭を独力で適切に管理し、やりくりができるか。また、一人で買い物が可能であり、計画的な買い物ができるかなど)
- スーパー等に食品や日用品などの買い物に行けますか?
- 必要なものを必要な数量だけ買うことができていますか?
- 1ヶ月程度の家計のやりくりなどが適切にできますか?
4.通院と服薬
(規則的に通院や服薬を行い、病状等を主治医に伝えることができるかなど)
- 自ら通院できますか?送迎や付き添いは必要ですか?
- 主治医に自分の状態を伝えられていますか?
- 主治医の指示を理解し、守ることはできますか?
- 薬の飲み忘れや飲み間違い、拒薬、大量服薬などはありますか?
5.他人との意思伝達及び対人関係
(他人の話を聞く、自分の意思を相手に伝える、集団的行動が行えるかなど)
- 人付き合いはできますか?メールや電話はどうですか?
- 周囲への配慮や状況に応じた対応はできますか?
- 相手の言葉を理解・判断し、適切な返答ができますか?
- 自分の言いたいことをきちんと伝えることができますか?
6.身辺の安全保持及び危機対応
(事故等の危険から守れるか、通常と異なる事態となった時に他人に援助を求めることなどを含めて適正に対応できるかなど)
- 包丁や暖房、ガスコンロなどを安全に使用できますか?
- 戸締りなどの警戒行為は適切にできていますか?
- 乗り物等の危険性を理解し、注意を払うことができますか?
- 普段と違う事態となったとき状況に応じた対処ができますか?
(例・火災時の119番通報や、地震など災害時の避難など)
7.社会性
(銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が一人で可能か、また、社会生活に必要な手続きが行えるかなど)
- 行政機関での各種手続きや銀行等の利用など、社会生活に必要な手続きなどを、自ら適切に行うことはできますか?
- 公共施設・交通機関等を利用することはできますか?基本的なルールを理解し、周囲の状況に合わせた行動ができますか?
社労士 かこ
まとめ
障害年金は書面審査です。調査員などが訪ねてきて現状を確認してくれるということはありません。つまり、「日常生活への制限」にしても、「労働への制限」にしても、書面で示すことができなければ、適切な等級認定がされないおそれがあるということです。
次回からはこの点を含め、請求手続きの手順やポイントなどについて書いていきます。
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